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最高裁判所第二小法廷 平成元年(オ)676号 判決 1992年10月02日

上告人 御國ハイヤー有限会社

右代表者代表取締役 明石直美

右訴訟代理人弁護士 徳弘壽男

被上告人 野口源吉

同 大石悟

同 筒井章雄

同 橋詰英俊

同 津田敏明

同 梅崎譲

右六名訴訟代理人弁護士 宮里邦雄 五百蔵洋一 小野幸治 土田嘉平

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人徳弘壽男の上告理由について

一  原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1  上告会社は、従業員約一一五名を雇用し、常時四二台のタクシーを稼働させて旅客運送事業を経営している会社であり、高知市桟橋通一丁目に帯田車庫と称する車庫(以下「帯田車庫」という。)を同市百石町にみくにハイヤー百石町車庫と称する車庫(以下「百石町車庫」という。)を所有している。被上告人らは、高知県下のタクシー労働者の個人加盟による単一組織の労働組合である全国自動車交通労働組合連合会高知地方本部(以下「全自交高知地本」という。)の組合員であり、昭和五七年当時、被上告人野口源吉は全自交高知地本の執行委員長、被上告人橋詰英俊は同書記長、被上告人大石悟及び同筒井章雄は同執行副委員長、被上告人津田敏明は全自交高知地本の組合員である上告会社の従業員をもって結成された全自交高知地本みくに分会(当時の組合員数は二四名である。以下「みくに分会」という。)の分会長、被上告人梅崎譲は同副分会長の地位にあった。

2  上告会社は、昭和五一年以降に採用するタクシー乗務員につき歩合給のみを支給する制度を採用し、これらの従業員を臨時雇あるいは臨時従業員と称して正社員にしていない。全自交高知地本は、毎年、上告会社の従業員の労働条件の改善、殊に賃上げ及び歩合給のみの従業員(みくに分会所属の者は四名である。)に基本給を加えることを要求し、上告会社と交渉してきたが、上告会社は、その経営状態が芳しくないこと、歩合給のみを支給する制度であっても同業他社の実情に照らし不合理ではなく、上告会社の経営を確立するためにやむを得ない方策であること等を理由に、右要求を拒否し続けた。全自交高知地本は、昭和五七年の春闘において上告会社に対し、基本給の一律二万円引上げ、年間臨時給九〇万円の支給、臨時従業員を正社員に採用しその賃金を基本給と歩合給の二本立てにすること等を要求し、これについて同年四月七日から七月六日まで四回にわたり団体交渉を行ったが、上告会社は乗務員の賃金収入の実績や上告会社の経営状態を理由に拒否の回答を重ね、交渉は物別れに終わった。

3  被上告人らを含む全自交高知地本及びみくに分会の幹部はストライキを行うこととし、同年七月九日始業時から同月一一日始業時まで四八時間のストライキを行うことについてみくに分会の多数決による賛成を得た。全自交高知地本は、同月六日の団体交渉の席上で、上告会社に対し右のとおりストライキを実施する旨を通告した。これを受けた上告会社は、専務取締役明石健市(以下「明石専務」という。)を通じて、被上告人橋詰ら組合側の出席者に対し、「会社側にも操業を継続する権利と企業を防衛する義務があるから、ストライキがあっても、タクシーは管理職によって稼働させる。」と述べ、稼働を妨害しないよう要請した。

4  ストライキは予定どおり実施されたが、被上告人らは、全自交高知地本の決定に従い、A勤務、B勤務(上告会社においては、一台のタクシーにつき二名の従業員が隔日に乗務するものとされており、各勤務をA勤務、B勤務と称していた。)共にみくに分会の組合員が一組になって乗務することとなっていたタクシー六台(以下「本件タクシー」という。)を上告会社側において稼働させるのを阻止するため、全自交高知地本の支部又は分会に所属する組合員に支援を求め、同年七月九日午前五時ころ、みくに分会の組合員が稼働を終えて本件タクシーを帯田車庫に一台及び百石町車庫に五台それぞれ格納すると同時に、被上告人筒井及び同津田が帯田車庫に、同橋詰、同大石及び同津田が百石町車庫に赴き、それぞれみくに分会の組合員及び全自交高知地本の支援組合員一〇名ないし一五名と共に、ござなどを敷き右タクシーの傍らに座り込んだり寝転んだりして両車庫を占拠した。また、同月一〇日にも、被上告人大石及び同筒井が帯田車庫に、同橋詰、同梅崎及び同津田が百石町車庫に、それぞれ右組合員らと共に座り込むなどして、両車庫の占拠を継続した。なお、その間、被上告人野口は右占拠の状況を視察し、同橋詰も百石町車庫から帯田車庫を訪れて視察した。

5  全自交高知地本が組合員が乗務するタクシーのみの運行を阻止する戦術を採った背景には、四国地区でのタクシー会社等の労働争議において、組合は組合員の乗務する自動車のみの稼働を阻止し、非組合員の乗務する自動車の稼働は妨げないという争議協定の実例があるのを知っていたことや、全自交高知地本の前身の組合が昭和四七年二月五日に上告会社との間で締結した協定書(本件ストライキの実施当時は失効していた。)にも、争議行為に関して、組合は自動車のエンジンキーや自動車検査証は所定どおり処理し、納金は遅滞しない、会社は争議期間中第三者を利用して業務を行わず、また新たに人を雇い入れないとの条項が存したこと、全自交高知地本においては、ストライキの際に組合員と非組合員との間に紛争を起こすことは避けたいとする気持が支配していたという事情があった。

6(1)  同年七月九日午前八時ころ、明石専務と上告会社の整備課長大崎長喜(以下両者を併せて「明石専務ら」という。)は百石町車庫に来て、上告会社名義で全自交高知地本、みくに分会、その他の関係者を名あて人とし、直ちにこの場所から退去することを命ずる、この命令に背く者は業務命令違反として後日必ず厳しく処分する、また損害賠償も請求する旨を記載した同日付けの通告書と題する書面を同所にいた全自交高知地本の役員に手渡し、口頭で二、三回タクシーを搬出させてもらえないかと申し入れたが、同所にいた組合員らはこれに応じなかった。また、そのころ、明石専務らは帯田車庫に来て、同所にいた組合員らに右同様の通告書を手渡し、口頭でタクシーを搬出するので退去するよう要求したが、同組合員らは、話し合いで退去できる状況を作るべきであると反論したり、中には「勝手にせいや」、「ひいて行けや」などと放言したりして、これに応じなかった。

(2)  同日正午過ぎ、明石専務らは帯田車庫に来て、前記同様の通告書を持参し、口頭で同所にいた組合員らに退去するよう要求したが、同組合員らはこれに応じなかった。

(3)  同日午後四時ころ、明石専務らは百石町車庫に来て、前記同様の通告書を持参し、口頭でタクシーを搬出させてほしいと申し入れたが、同所にいた組合員らは、マットを敷いて寝そべり、あるいは将棋を指し、新聞を広げており、明石専務が近づいても無視して取り合わなかった。

また、そのころ、明石専務らは帯田車庫に来て、同所にいた組合員らに退去を求めたが、同組合員らはござを敷いてその上に座ったり寝転んだりしていて、これに応じなかった。

7(1)  同年七月一〇日正午ころ、明石専務らは百石町車庫に来て、日付を同月九日から同月一〇日に訂正した前記同様の通告書を同所にいた組合員らに手渡し、口頭で退去を要求したが、同組合員らはござを敷き、その上に座って雑談したり、新聞を読んだり、携帯用のテレビを見たりしていて、これに応じなかった。

また、そのころ、明石専務らは帯田車庫に来て、同所にいた組合員らに右同様の通告書を手渡し、口頭で退去するように要求したが、同組合員らはござを敷いてその上に座っているか、車庫前に車庫の方を向けて並べたバイクにそれぞれまたがるなどして、いずれも右要求には応じなかった。

(2)  同日午後一〇時ころ、大雨のため、両車庫にいた組合員らは引き上げ、前記両車庫の占拠は解除された。上告会社は間もなく本件タクシーを他に搬出した。

二  上告会社は、被上告人らは、共謀して、昭和五七年七月九日午前四時から翌一〇日終業時までの二日にわたり、帯田車庫及び百石町車庫を他の十数名の者と共に占拠し、上告会社の退去命令に従わず、両車庫に格納されていた本件タクシーを上告会社が搬出し稼働させることを不可能にして、違法に上告会社の営業を妨害したものであると主張し、被上告人らに対し、不法行為による損害賠償として、逸失利益一八万二一一二円及び弁護士費用相当額三〇万円の合計四八万二一一二円と右逸失利益額に対する遅延損害金を支払うよう求めて本訴を提起したものである。

これに対し、原審は、前記の事実関係の下において、被上告人らの前記自動車運行阻止の行為は、本件争議に至る経緯、争議の目的、態様、被侵害利益などを総合してこれを全体として評価すれば、正当な争議行為に該当するというべきであるから、仮に被上告人らの行為によって上告会社の営業が妨げられたとしても、それによって生じた損害につき被上告人らに損害賠償を請求することはできないとして、上告会社の請求を棄却すべきものとした。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

ストライキは必然的に企業の業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務提供義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、不法に使用者側の自由意思を抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されず、これをもって正当な争議行為と解することはできないこと、また、使用者は、ストライキの期間中であっても、業務の遂行を停止しなければならないものではなく、操業を継続するために必要とする対抗措置を採ることができることは、当裁判所の判例(昭和二四年(オ)第一〇五号同二七年一〇月二二日大法廷判決・民集六巻九号八五七頁、同二七年(あ)第四七九八号同三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一六九四頁、同五二年(あ)第五八三号同五三年一一月一五日第二小法廷決定・刑集三二巻八号一八五五頁)の趣旨とするところである。そして、右の理は、非組合員等により操業を継続してストライキの実効性を失わせるのが容易であると考えられるタクシー等の運行を業とする企業の場合にあっても基本的に異なるものではなく、労働者側が、ストライキの期間中、非組合員等による営業用自動車の運行を阻止するために、説得活動の範囲を超えて、当該自動車等を労働者側の排他的占有下に置いてしまうなどの行為をすることは許されず、右のような自動車運行阻止の行為を正当な争議行為とすることはできないといわなければならない。右タクシー等の運行を業とする企業において、労働者は、ストライキの期間中、代替要員等による操業の継続を一定の限度で実力により阻止する権利を有するようにいう原判示は、到底是認することのできないものである。

これを本件についてみるに、前記のとおり、原審の確定したところによれば、全自交高知地本が実施した本件ストライキにおいて、被上告人らは、全自交高知地本の決定に従い、上告会社が本件タクシーを稼働させるのを阻止することとし、昭和五七年七月九日及び同月一〇日の両日にわたり、みくに分会の組合員及び全自交高知地本の支援組合員らと共に、帯田車庫及び百石町車庫に格納された本件タクシーの傍らに座り込み、あるいは寝転ぶなどして、上告会社の退去要求に応ぜず、結局、上告会社は、両日にわたり、本件タクシーを両車庫から搬出することができなかったというのである。右事実によれば、被上告人らは、互いに意思を通じて、上告会社の管理に係る本件タクシーを全自交高知地本の排他的占有下に置き、上告会社がこれを搬出して稼働させるのを実力で阻止したものといわなければならない。もっとも、原審の認定した事実によれば、全自交高知地本は、労働条件の改善の要求を貫徹するために本件ストライキを行ったものであり、その目的において問題とすべき点はなく、また、その手段、態様においても、前記一の5記載のような経緯があって、上告会社の管理に係るタクシー四二台のうちみくに分会の組合員が乗務する予定になっていた本件タクシーのみを運行阻止の対象としたものであり、エンジンキーや自動車検査証の占有を奪取するなどの手段は採られず、暴力や破壊行為に及んだものでもなく、明石専務やその他の従業員が両車庫に出入りすることは容認していたなど、全自交高知地本において無用の混乱を回避するよう配慮した面がうかがわれ、また、上告会社においても本件タクシーを搬出させてほしい旨を申し入れるにとどめており、そのため、被上告人らがその搬出を暴力等の実力行使をもって妨害するといった事態には至らなかったことは、原判示のとおりである。しかしながら、これらの事情を考慮に入れても、被上告人らの右自動車運行阻止の行為は、前記説示に照らし、争議行為として正当な範囲にとどまるものということはできず、違法の評価を免れないというべきである。

四  以上によれば、被上告人らの前記自動車運行阻止の行為が正当な争議行為に該当するとした原審の判断は、労働組合法八条の解釈適用を誤ったものというべきであり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。本件については、叙上の見解に立って損害の点につき審理をさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よって民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 藤島昭 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也)

上告代理人徳弘壽男の上告理由

第一原判決は憲法第二八条の解釈を誤り、憲法上許容された争議行為の範囲を逸脱した争議行為を適法と認めた違法があり、結局最高裁昭和二七年一〇月二二日大法廷判決(民集六巻九号八七〇頁)に違反し、取消を免れない。

即ち、「同盟罷業は・・・・本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるから」、同盟罷業に伴う暴行、脅迫は勿論のこと、使用者の「自由意思の抑圧」、「財産に対する支配の阻止」行為は許されないことの立場を表明した右判例に違反する原判決は取消されるべきである。

一、原判決の認定した事実

I、上告人は従業員一一五名を雇用し常時四二台のタクシーを稼働させ、車庫として帯田車庫、百石町車庫を有している(以下本件車庫と略称。請求原因一項)。

II、上告人は、雇用していたタクシー乗務員の賃金についてもと固定給制を採用していたが、赤字が累積し、経営状態が著しく悪化し、昭和五一年努力するものと、そうでないものとが同じ固定給を受けることの不公平を是正するため歩合給に改めたが、その際約七カ月におよぶ全自交地本所属組合員のストライキを経て、合意を見て歩合給が導入された(八丁表裏)。

III 、昭和五七年当時、上告人の会社経営状態が良好であったと言える事情はなかった(九丁表末行)。

IV、昭和五七年三月、全自交地本は上告人に対し、「基本給一律二万円引上げ、年間臨時給九〇万円支給、臨時従業員を正社員に採用、賃金を基本給と歩合給の二本立てにすること」等を要求して団体交渉を行なったが、交渉は物別れとなった(一〇丁裏)。

(ここで注目すべきは、原審は、当事者間で成立に争いがなく、<書証番号略>と一体の要求である<書証番号略>を証拠から除外し、後者についての判断を故意に避けている事実である。後述参照。)

V、七月六日みくに分会員二四名の多数決で、七月九日始業時から一一日始業時まで四八時間のストライキを行なうことを上告人に通告、上告人は「ストライキ権の行使はやむを得ないが、タクシーは管理職によって稼働させる。稼働を妨害しないよう」要請した(一一丁表裏)。

VI、七月九日、一〇日の両日にわたり、被上告人らは全自交参加の支部・分会員に支援を求め、本件車庫内に納車と同時に「ござなどを敷き、支援組合員一〇ないし一五名とともに右タクシーの傍に座り込んだり、寝転んだりして」、両車庫を占拠した(一一丁裏、一二丁表)。(註一九丁表七行目「格納庫の前に座込み」は明白な誤り。)

VII 、両日上告人は、車庫の占拠を排除するため通告書と題する文書を持参し、かつ口頭で車を搬出させて欲しい旨を要求したが、組合員らはマットを敷いて寝そべり、あるいは将棋を指し、完全に無視して取合わず、中には「勝手にせえや。」、「轢いていけや。」と放言してまともに取合わなかった(一三丁表ないし一六丁裏)。

VIII、以上の結果、二日にわたり本件車庫が占拠され、タクシー六台の稼働が不可能となった。

このタクシー搬出を妨害する行動にでたのは、被上告人らがその相互間及び支援組合員らとの間で意思を相通じ、共謀のうえ行なったものである(一七丁表末行)。

二、原判決の争議行為、その正当性に関する見解についての誤りと、判決の矛盾。

1、原判決は、「争議行為は、労働者の集団的労務供給拒否により使用者に業務遂行上の打撃を与えることをその本質とする同盟罷業とこれを実質的に維持するために必要な附随的行為を含む」としたうえで、争議行為が正当なものと認められるか否かは、「その争議行為の主体、目的、手続、手段・態様等その他諸般の事情を考慮して法秩序全体の見地からこれを判断するのが相当である」と判示する(一八丁表)。

2、右は、前掲最高裁昭和二七年一〇月二二日大法廷判決民集六巻九号八六七頁(ハ)ないし(ト)における上告人の論旨とほぼ同一である。

しかし、憲法上労働基本権が認められ、民事免責が容認される法理は、「ストの本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないこと」に求められるべきで、手段方法を選ばずして、使用者に業務遂行上の打撃を与える同盟罷業(以下『スト』と略称)にあるからではない。

まして「(無限定的に)これを実質的に維持するために必要な附随的行為を含む」ものではない。

「労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行の手段方法として、労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させない」結果、必然的に業務の正常な運営を阻害することがあるからと云って、「・・・・使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為」に対し、違法行為をもって、これを妨害し、経営権を侵害することは許されるものではない。

然るに同盟罷業を実質的に維持するためと称して、「必要な附随的行為を含む」と解するのは、同盟罷業の本質とその手段方法を逸脱したもので、到底これを目して正当な争議行為と解することはできないものである。

原判決が、業務遂行上の打撃を与える結果に着目し、争議権の本質を当然に操業の阻止行為(『附随的行為』の名称を使用するか否かに関わらない)まで含む見解のもとに、「使用者に業務遂行上の打撃を与えることをその本質とする同盟罷業とこれを実質的に維持するために必要な附随的行為を含む」と判断したのは私有財産制を根幹とし、使用者の自由権、財産権等の基本的人権も保障する憲法に違反するもので、明らかに、憲法第二八条の解釈を誤り、かつ前記判例に違反するものである。

3、本件争議は単に経済闘争のみでなく、<書証番号略>による統一要求書に政治目的を掲げ、<書証番号略>では全自交の指名する者に協定委任状を要求していることが明白である。しかし原審は単なる経済闘争として、敢えてこれを看過する。

仮に、この点は論外としても「一律基本給二万円引上げ、年間臨時給九〇万円」の要求が単に「労働条件改善要求を貫徹する目的」(一九丁表)のためであり、「本件争議に至る経過、争議の目的、態様、被侵害利益など総合してこれを全体として評価すれば、正当な争議行為に該当する」と言えるか否かが、吟味されなければならない。

右金額は2万円×12(月)+90万円=114万円(1人当/年)

114万円×115(名)=1億3千110万円(年間経費増総額)

の要求は、極めて小規模な上告人会社にとっては、直ちに壊滅的打撃を与える要求であり、これをもって正当な経済的要求とするならば、「企業に倒産せよ。」というに等しい。

即ち原判決認定の昭和五一年の長期ストは四〇〇〇万円の赤字計上による倒産の危機が、その契機となり、「働いた者は働いた額に応じて、会社倒産前に支払いを受ける以外会社再建の途はない」との経営哲学を組合が合意し、ここに歩合制導入によって会社再建途上にあるものである。

こうした経営実体とかけ離れた金銭要求は、一見経済闘争に名をかりた「会社倒産要求」と云っても過言ではない。

「被侵害利益など総合して」これを全体として評価するには、単に金額を掲げたから「労働条件改善要求を貫徹する目的」であったと速断することは許されず、実現不可能な要求は、『労働条件改善要求』と無関係と云う他はない。

(要求を貫徹すれば会社倒産以外にあり得ないことが明白な本件において、「倒産した会社では労働条件云々。」を論ずる余地はないからである。)

4、原判決が「使用者に操業の自由があることは言うまでもない」と認定しながら、「労働者にも・・管理職を含む適法な代替要員による操業の自由の継続をも一定の限度で阻止する権利を有する。」(二〇丁表一~五行)との判断は、基本的人権の保障する自由権及び労働基本権の解釈を誤り、後者の権利が前者に優先することを認めたもので、

「憲法は・・・前記団結権等がこの自由権、財産権等に対し絶対的優位を有することを認めているものではない(一七丁裏)」

との憲法二八条に関する原判決の解釈とも自己矛盾を示すものである。

結局同条の解釈を誤って、適法な操業の自由の継続を阻止できるとする原判決は、憲法の解釈を誤って判決したもので取消を免れない。

第二原判決は、憲法第二八条、第一一条、第二九条の解釈を誤り、使用者の私有財産制の基幹を否定する労働者側の職場占拠、ないしは生産管理に対して、民事免責を認めた違法があり、かつ最高裁昭和二五年一一月一五日大法廷判決(刑集四巻一一号二二五七頁)、最高裁昭和二八年一一月二六日小法廷判決(集刑八八号八六一頁)、最高裁昭和二九年四月七日大法廷判決(刑集八巻四号四一五頁)、最高裁昭和三三年五月二八日大法廷判決(刑集一二巻八号一六九四頁)、最高裁昭和五四年一二月一九日小法廷判決(刑集三三巻七号九六六頁)、最高裁昭和五四年一〇月三〇日小法廷判決(民集三三巻六号六四七頁)等の確定判例に違背し、破棄されるべきである。

一、憲法第二八条に保障する労働者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利(以下労働基本権と略称)は無制限ではなく、同法第一一条の保障する平等権、自由権、財産権等の基本的人権の享有を侵害し、同法第二九条において自由国家において確立された私有財産制の基幹を侵害することは許されない。

二、即ち前掲判例が判示するごとく、

「憲法は、・・・勤労者の争議権の無制限な行使を許容し、それが国民の平等権、自由権、財産権等の基本的人権に絶対的に優位することを是認するものではなく、したがって、労働者が労働争議において使用者側の自由意思をはく奪し又は極度に抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止し、私有財産制度の基幹を揺がすような行為をすることは許されない(前掲最高裁昭和二五年一一月一五日大法廷判決)。」ものである。

三、然るに原判決は、使用者の権利は、労働基本権に対して一定の限度で制限を受け、財産権の侵害も許されるとして、憲法の認めた基本的人権の享有を否定して不平等を認めた違法がある。

四、なるほど原判決も

「憲法は同時に国民の自由権、財産権等の基本的人権も保障しており、前記団結権等がこの自由権、財産権等に対し絶対的優位を有することを認めているものではない。」

と判示(一七丁裏)し、最高裁判例と同趣旨を一応は掲記していることは前述した。

五、しかしながら、原判決が本件争議行為について

「ストライキ中といえども車両をいったん使用者の占有下に置けば、代替要員によって操業の継続が極めて容易で、ストライキの実効性を失わせることができるのであるから、ストライキ中の労働者がその実効性を確保するため『ピケあるいは座込みをもって使用者による車両の搬出を阻止しようとすることは必要・不可欠』とも言うべき戦術(一八丁表裏。傍点並びに『』は上告人註。以下同)であると論じ、

「労働者にもスト破りのための臨時雇入れによる操業の継続を阻止し、管理職を含む『適法な代替要員による操業の継続をも一定の限度で阻止する権利を有する』ことは先に説示したとおりである」(二〇丁表)。

との判断をもって、労働者側に、上告人の『適法な操業継続』すら、職場占拠もしくは生産管理(後述)によって阻止できると判断したのは、「使用者側の自由意思を抑圧し、財産に対する支配を阻止出来ること」を認めたもので、最高裁昭和三三年五月二八日大法廷判決(刑集一二巻八号一六九四頁参照)にも違反する。

原判決の所論は、憲法上労働者側に、企業の適法な操業を否定する権利が認められているとするものであるが、憲法上かかる権利は容認されていない。

結局原判決は、所謂労働者側の職場占拠、ないしは上告人の企業施設である車庫並びに生産資材である車両及び使用者たる指揮命令権を完全に排除して企業経営の権能を非権利者が行なう(積極・消極に差異はない)生産管理をも容認する事に帰着し、わが国憲法が根幹とする私有財産制度を否定するものと云わざるを得ない。

六、「わが国現行の法律秩序は、私有財産制度を基幹として成り立っており、企業の利益と損失とは資本家に帰する。従って企業の経営、生産工程の指揮命令は、資本家又はその代理人たる経営担当者の権限に属する。・・・従って労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。(前掲最高裁昭和二五年一一月一五日大法廷判決)」ことを明確にした確定判例に違反すること明白であり、憲法上の私有財産制を否定する原判決は他を論ずるまでもなく破棄されるべきものである。

よって原判決の取消を求める。

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